押入れの中に身を滑り込ませ、そっと時が過ぎるのを待つ。
得も言えぬ生ぬるい空気が場を満たし、それは獏良に素晴らしい充実感を与えた。
テレビの中の、友人達の声が遠く聞こえる。
怒鳴り声の様な宣言、断末魔のような破壊音、まさに地獄の様な場面が獏良の脳内に描かれた。
ひっそりと暗闇の中、こうして遊びに興じる自分とは違う人種なのだ、彼らは。
華々しい栄光、派手な舞台場、本能と理性の狭間の遊戯。
獏良にとって、そのどれもが下らなく、そして一切興味の持てないものであった。
かつての半身が身を投じ、そして死に追いやられていたものであったが、それも既にどうでもいい。
「まだ、かなぁ…」
身を潜め、じっと虚空を見つめること数分、変化は起こった。
生ぬるかったはずの空気が、凛と張り詰める。
来た、と獏良は確信した。
自ずと背筋ものび、耳を澄ませる。
水気を孕んだ足が、フローリングを忍び歩く音が聞こえた―